http://be.asahi.com/20041120/W11/0020.html

カネで買えないものなどあるわけない
ライブドア社長
堀江 貴文さん(32歳)

「世の中にカネで買えないものなんて、あるわけないじゃないですか」
大方の人が反発しそうなことを平気で口にする。
日本で今、最も有名な30代、「ホリエモン」が放つ言動は常に挑戦的だ。
大阪近鉄バファローズの買収に名乗りを上げたのは今年6月。
多くの人にとって「僕の知らない人」(渡辺恒雄・前巨人オーナー)だった。
それが、どうだ。今や、経営支援を表明している競馬場に姿を見せただけで、
勝負服の女性騎手から花束を贈られる。「堀江コール」も浴びる。
会社の事業内容がよく分からなくても、ライブドアの知名度は急上昇中だ。

いわゆるITベンチャーの勝ち組の例に漏れず、
企業の合併・買収(M&A)をテコに事業領域を広げる。
「仙台新球団」選考のさなか、高崎競馬の馬券のネット販売構想を表明したのは序の口。
世界中どこでもタダで通話できる電話ソフトで通信業界を揺さぶる、欧州のスカイプと提携。
続いて、大手会計ソフト会社を100億円の現金と、株式交換による自社株の割り当てなどで買収した。
国の財政難からサラリーマンの税控除が縮小する方向。今後、青色申告が身近になると見たからだ。

福岡県八女市のサラリーマン家庭に生まれた一人っ子。
小学校のテストは全部100点。
中高一貫の進学校に進み、高校3年になるまでまるっきり勉強しなかったというが現役で東大に合格した。
しかし、「大事なのは、入ったという事実と人脈だけ」。まじめに通ったのは最初の2カ月。
バイトとギャンブルに明け暮れる日々を一変させたのは、ネットとの出会いだ。

「ここではビジネスも、オセロゲームのように、数手先には白黒の展開がガラッと変わる。
自分もナンバーワンになる道がある」。
96年4月、ホームページ制作のオン・ザ・エッヂを設立し、上場にこぎ着けた。
その後、経営が立ち行かなくなった企業を次々に買収。
現社名も、事業を譲り受けた無料プロバイダーの名前だ。
破綻(はたん)したとはいえ、150万人の会員を抱える同社の知名度を生かさない手はない。
それがこの人流だ。

生来の「飽きっぽさ」が、絶えず、次の飛躍のカギとなる新たな事業を探させる。
実態が分からないと揶揄(やゆ)されるが「もうかることなら何でもやる」。
選択の基準は、人がめったに手を出さないところにあえて踏み込む「逆バリ」くらい。
方向性など後付けで構わないのだ。

暇をみつけてはジムに通い、おいしい物をどんどん食べる。仕事でも同じ。
手がける事業が多すぎて消化不良で苦しんだりするような胃袋の持ち主ではない。
「あいつは変わったヤツだと思ってくれるのは、願ったりかなったり。
だって、だれもまねしないでしょ。それがチャンスなんですよ」
だから、このまま突っ走る。

◆圧倒的なスピードと効率でビジネス常識砕く

――プロ野球参入はなりませんでしたが、高崎競馬支援を表明したり、
総額230億円で会計ソフト会社を買収したりと、めまぐるしいですね。

堀江 それがやれて、それだけのカネを持っている会社だということです。
プロ野球はもともと、リスクゼロの挑戦だったから、
選考に漏れても損はなかったし、すぐ忘れました。
競馬は、マスコミの取り上げ方は派手ですが、何百もある新規ビジネス案件の一つ。
まあ、ボチボチじゃないですか。

――つねに投資家の心をくすぐり、株高を誘う「猫じゃらし」商法と評判です。

堀江 会社って株主をもうけさせるための仕掛けですから。そう思うのは勝手ですが、僕はもうけたいだけ。
意図してるわけじゃない。狙ってできれば、世の中、ヒット商品の山ですよ。

◆50歳では不可能

――他の企業に比べ、頭一つ抜けて見える最大の理由は。

堀江 単純に、普通の経営者に比べて若いからじゃないですか。これってすごく大きい。
みんな、やっぱりスピードが遅い。
僕も体力的、精神的にいっぱいいっぱいでやってますが、これを50歳でやれって言っても無理。
だから、いちばん時間がかかる情報収集と知識の吸収ができてない。

――みんな、余計なことばかりしていると。

堀江 そう。人に会うなどリアル(現実)にモノを吸収するのは、物理的に限界があるわけですから、
僕は、メールでもネットでも本を通じてでも、どんどんインプットする。
圧倒的なスピードと効率でやれば、十分差別化になる。
僕、ビジネスでも、同じ人に会うのは、せいぜい1、2回。あとは担当者に投げちゃいます。

――東大在学中の96年に起業してますね。

堀江 バイトしてみて、インターネットが大きな市場になることが分かったし、こ
れならナンバーワンになる可能性があると。大学には、ほとんど行ってません。
東大は、入ったことが重要で、あとは「何年入学だよね」「あっ、同じじゃない」って、
人脈も勝手にできるんですよ。

――で、業績を順調に伸ばし。

堀江 ええ。本当に頭のいいヤツって、なぜか起業しないです。だから、楽に勝てた。

――サラリーマンになろうと思ったことは。

堀江 一度もないですね。まず、搾取されるじゃないですか。
いちばんこき使われて、大卒の初任給が22万円とか。
日本の企業って、まだまだ年功序列でしょ。
60歳超えて社長になって、権力握ってカネ持っても、何もできないじゃないですか。
食べる量だって減るから、うまいものもあまり食えないし。
しかも、ポストはピラミッド型で、社長になるのは一人。
こんなネズミ講みたいなシステムを何で信じるのかって。

◆日本一変なヤツ

――プロ野球参入問題では、「救世主」と言われました。
一方、堤義明・前西武ライオンズオーナーの足元などでスキャンダルが露見しましたね。

堀江 サラリーマンになる人に対してと同じ思いを感じますよ。
なぜ、自滅しようとするのって。だからといって、折伏するつもりはない。面倒くさいから。

――世の中を見ていて、イライラすることが多いのでは。

堀江 別に。自分はちゃんとやれてますから。

――日本が窮屈では。

堀江 米国に行ったら、自分はワン・オブ・ゼムにすぎないんですよ。
日本だから「変なヤツ。クレージーだ」と言われながらも、オンリー・ワンなんですよ。
願ったりかなったりです。

――ビジネスでは、ウィンドウズの対抗馬、リナックスがベースの基本ソフト(OS)を手がけるなど
「アンチ」を貫いてます。

堀江 もうかるからですよ。全部リナックスに切り替わったら、うちはボロもうけじゃないですか。
要は、他人が注目しないところを狙うこと。うまくいけば、いちばんもうかるんですから。
「逆バリ」の発想ですよ。

――おカネで計れないような価値を広めたいとは思いませんか。

堀江 それに何の意味があるのか、逆に教えてほしいですよ。
世の中、おカネで買えないものはないし、おカネの前ではすべて平等なんです。
いくら貧乏でも、才能があれば、それをおカネに換えられるし、頑張った分だけ報われる。
頭がいいとか、運動能力が高いとか、芸術的な才能があるとかって、絶対的な基準で比較はできない。
でも、稼ぐおカネで推し量ることはできるんです。

――はっきりしていますね。

堀江 「おカネで買えない価値がある」なんて言うのは、自分が努力しないことに対する逃げ、
自分の才能が足りないことを認めたくない逃げですよ。
僕は、自分に能力がないんだったら、努力するか、あきらめるか、はっきりしろよって言いたいですね。

◆夢など持たない

――評価の仕方が間違っているから、報われないと思っているサラリーマンは多いですよ。

堀江 それを逃げだと言ってるんですよ。
フェアじゃなければ、フェアな土俵をつくればいいじゃないですか。
自分で商売を始めたら、ものすごくフェアですよ。

――夢は何ですか。

堀江 ないですね。飽きっぽいんで。
社長をやっていていいのは、最低限もうかれば、何をやっても構わないところ。
知的好奇心を満たすため、毎日、毎時間、違うことをやって、それは満たされている。
夢みたいな感傷的なもの、持たなくていいんですよ。

◆ 転機 ◆

「何で命に値段つくんだ」が原点

「僕にストーリーを求めてもムダ。ほんと、身もふたもないですから」
 2時間ほどのインタビューの間、何度も繰り返した。
「よくある波瀾(はらん)万丈って、結局、能力が低いだけなんですよ。
世の中、失敗のケーススタディーがあふれているんだから、それを反面教師にしていったら波なんか、
あり得ないですよ」

 とにかく、とりつく島がない。ただ、おやっと思わせる瞬間もあった。
「何で命に値段がつくんだ!」

小学生だったこの人の将来に備え、両親が生命保険会社の保険の加入を相談していたときのこと。
自分の死亡時に給付金が支払われると知って、思わず大声を出していたという。
親子の無条件な愛にカネが介在する違和感。
「人の命に値段があることが、本能的に受け入れられなかった」と振り返る。カネとの格闘の原点だ。

ビジネスは当然、カネがすべて。ネット専業のイーバンク銀行への参画。
一時は筆頭株主になったものの、経営陣との確執で、最後は互いに相手を訴えるなどの泥仕合に。
しかし、資本関係の解消で「株の売却益も出て、トータルの損はない」。
プロ野球の参入構想もしかり。だから、資金繰りに窮したこともないのだと。
だが、プライベートでは違った。

99年。上場をめぐる対立で、創業メンバーら約10人が社を離れていった。
かつての恋人もだ。彼女の父親は会社設立時からの資金提供者で大株主。
いびつな関係を何とかしようと、株を時価で買い取るのに、個人で銀行から億単位の借り入れをした。

上場後に保有株の一部を換金すれば、すぐに返せると踏んだが、
ネットバブルの崩壊で売るタイミングを逸し、返済を繰り延べてもらった。
社長と創業メンバーは一心同体ではない、社長は会社の支配権すべてをつねに掌中に収めるべし。
それが教訓だ。

「転機なんかない」というが、心を震わせたり、肝を冷やしたりを通じての糧はちゃんとあった。