ネット使えない選挙運動「困らない」--堀江貴文氏に聞く公選法の問題

http://japan.cnet.com/interview/story/0,2000050154,20086716,00.htm


マスメディアによる衆議院議員選挙の報道合戦が連日のように繰り広げられる中、
インターネットでも選挙に関するさまざまな動きを目にするようになった。
たとえば、ブログ。昨年の米大統領選では、民主党のハワード・ディーンがブログを勢力的に使い、
多額の選挙資金を献金として集めることに成功するなど、
選挙とブログの関係が注目されたのは記憶に新しいが、
日本でもブロガーたちによる争点となった郵政民営化問題や衆議院議員選挙に関する書き込みが増えている。
ブログ検索のテクノラティは「選挙特集コーナー」を開設し、
ブロガーたちの選挙に対する関心度をピックアップしている。

一方、新党もウェブサイトを開設し、各政党もウェブサイト上でマニフェストを公開するなど、
政治活動としてのインターネットの利用をフルに生かそうとしている。
ところが、“政治活動”であれば問題ないインターネットの利用も、
選挙に結びつく“選挙運動”となると話が変わる。
インターネットによる選挙運動は、
ウェブサイトでもメールでも公職選挙法で規制されている「文書図画」にあたるとして
その利用を認められていなからだ。
したがって、選挙公示日以降のインターネットの利用は当然ながら、
それ以前でも投票勧誘につながる選挙運動だとみなされれば、公選法違反になるかもしれないという。

だがインターネットの利用がこれだけ普及し、
ブログや掲示板やソーシャルネットワーキング(SNS)といったツールを使った政治議論の機運が高まる中、
候補者であれば自身の選挙運動としてインターネットを利用したいと思うのは当然だろう。
そこで、ライブドアというインターネット企業の代表取締役であり、
今回の選挙への出馬を表明している堀江貴文氏に、インターネットと選挙活動についての考えを聞いた。


--公職選挙法によって政治活動や選挙運動がインターネットでほとんどできないという問題があると思います。
 現在、困ったと感じていることはありますか。

 困ったと感じたことはないですよ。

--ただ、インターネットが利用できない公職選挙法を改革したいという思いはないですか。

 改革するのは当選してからでしょう。(いますぐには)改革できないですから、残念ながら。
 だってリスクがあるでしょう、改革することには。
 そのリスクも半端じゃないリスクがあるので、それはできないですよね。
 公職選挙法で明確に否定はされてはないのですが、(インターネットの利用は)グレーゾーンなんですね。
 つまり、取り締まる側の胸先三寸で、いくらでも法解釈をできてしまうので、
 少なくとも身柄を拘束することぐらいはできちゃうんですよね。
 公職選挙法違反で逮捕ってことはできるんです。そんなことで逮捕ってことになったら大変なわけです。
 それだけの風評リスクだけでも僕は困るわけです。
 なので、絶対(インターネットを利用することは)できないですよ。

--では、現時点ではウェブサイトを作ったりメールを使ったりはしないのでしょうか。

 いや、ウェブは作る予定ですが、8月30日の公示日以降はいっさい更新をしません(※)。

--たった1週間程度のためのサイトを作るということですよね(このインタビューは8月24日に行った)。

 そうです。

--『livedoor社長日記』の更新を止めたのは、ライブドアという会社の枠組みではなくて、
 選挙用に新しいサイトを作るからでしょうか?

 ウェブサイトは更新しないです。そのまんまですよ。
 日記とかもやらないです。社長日記もダメなんですよ。
 (選挙用のウェブサイトは)ただのウェブサイトです。
 だから、何もできないんです。すごい制約があって厳しいです。

--ただ、法律ではウェブサイトを更新してはならないとはなっていません。

 それも解釈上非常に難しいんです。
 テキストだったらダメかもしれないけれど、音声だったらいいのかとか、いろいろあるんです。
 ものすごいフリーハンドな法律なんですよ、あの法律は。

--つまり、あれこれと実施して後で問題となるよりは、何もしないほうがましだということでしょうか。

 実施して後で逮捕されてしまったらどうするんですか。
 僕がただの素浪人だったらいいのですけど、
 会社の社長であるという責務があるので、それはできないですよね。

--また、社長日記で「ライブドアニュースチームは、総選挙特集でがんばります。」と書いていましたが、
 結局はライブドアニュースでは選挙に関する報道はすべて止まりました。

 それも公職選挙法の理由です。
 自分が影響力を及ぼしている会社の従業員を
 選挙活動に使ってはいけませんよという法律になっているわけです。

--それだけ法律が厳しいということですね。

 要するに、若い者や新参者を(国会議員の道に)入れにくくしている法律なんです、公職選挙法は。
 議員である自分たちの保身のための法律なんですよ。
 議員が立法しているわけですからそうなりがちです。だからよくならないんです。

--逆に当選されたら公選法を改正したいと思いますか。

 もちろん議員の身分となれば、法案としては出したいと思っています。
 公職選挙法の改正案ですよね。それは出せばいいと思いますよ。
 議員定数も減らしたほうがいいし。
 参議院も縮小して、あるいはなくしてしまうというぐらいの勢いですけども。

--昨年、米国の大統領選ではハワード・ディーンがブログを使うなどして
 インターネットを駆使した選挙活動を行いました。多額の献金を集めることもできました。
 日本でも、インターネットで選挙運動ができるとすると、新しい政治家が生まれると思いますか。

 まず、献金については、なんでそんな制度があるのかということですよね。

--それはどういう意味でしょうか。

 どう考えたって、利益誘導につながりませんか?
 そんなことはないんですかね。献金と賄賂の違いってなんなのですか?

--社会がよくなると信じて献金しますが、賄賂は対価をもとめますよね。建前だとしても。

 それは、そんなにかわらないですよね。

--でもそうなるとある程度お金をもっている人でないと、立候補できないということにつながりませんか?

 それでいいんじゃないですか? それはまずいんですか?

--まずくはないのですが、お金がなくても世の中を変えたいという意思を持つ人もいますよね。

 でも、献金を集めなければできないんでしょう。それは賄賂とか汚職につながりませんか。
 僕なんか汚職とか賄賂に絶対つながらないですよ。だからそれは古いものの見方だなと思う。
 僕はその前提として、相続税率100パーセントにしてもいいと思うんです。

 僕が言いたいのは、親が金を持っていただけで議員になってしまうようなボンボン二世がいたらまずいけれど、
 相続税率100パーセントにしてしまえば、そういう人は絶対に出ないよねっていうことです。
 お金をちゃんと渡したいのであれば、贈与税の範囲で生前贈与すればいいと思うんです。

 ほかには、企業活動でお金を稼いで立候補すればいいんじゃないですか。
 それと、僕は政治家の数そのものが減ればいいと思うんです。
 国会議員でも衆議院に500人ぐらいいるでしょう。それを200人とか150人に減らしてもいいと思うんですよ。
 多すぎですよ、いまの議員数は。
 国務大臣なんかも半分は民間から登用してもいいようになっているんです。
 政務官や副大臣もそうなんです。だから民間登用すればいいと思うんです。
 官僚も民間登用できるようにすればいいんですよ。
 たとえば、課長クラスとか。民間からヘッドハンティングしてこれるようにすればいいんですね。
 そういうのも含めて、ネットで金を集めるというのはどうかと思う気がするんです。

--ただ、献金のためではなくて、立候補者について知ってもらうという役割については、
 インターネットは大きいのではないですか。

 ウェブサイトを作って(選挙運動を)やれるようになればいいよねっていうのは誰でも思っているんだけど、
 現職の議員が保身のためにそうしているから、だめですね。
 その原因を作っているのは、やっぱりもろもろの法制度だと思うんです。
 だってそうじゃないですか。政治家って、たとえば衆議院議員ってものすごく割に合わない商売なんですよ。
 4年の任期で、しかもいつでも解散されてしまう。つまり、いつでもリストラされてしまうわけですよ。
 そのたびに選挙をしなければならなくて、お金がかかるでしょう。大変じゃないですか。
 そういうすごいリスクのある商売をわざわざやる人って、
 もう結果として二世、三世議員として家業になってしまっているんですね。
 家業だから仕方なく継ぐとか、家業だから親父の背中を見て育ってすごいなと思ったからやるとかじゃないと。
 普通の人は「政治家ってなんか悪いことしてそうだな」って思っているわけです。
 しかもお金はかかるし、文句ばっかり言われるし、大変だとみんな思っているわけです。

--堀江さんは昨年以降、世間的にものすごく知名度が上がったことが、
 今回の選挙に出られた理由につながっているとおっしゃっていましたが、
 もし知名度がなければ選挙に出ようと考えていませんでしたか。

 考えていないでしょうね。

--インターネットで選挙を変えてやろうという意識があったわけではないのですね。

 ないですね。だって、変えられないんですもん。

--でも、これから若い世代が成長して、政治への参加意識を持てば公職選挙法も変わって
 インターネットを選挙活動にうまく使える仕組みができあがっていくと思うのですが。

 いや、わかんないですよ。みんな議員にならないと変わらないです。
 だって、現職議員は自分たちの保身のことしか考えていないわけだし、古臭い選挙をやっているわけです。
 みんな、小選挙区で地盤があって。いつまでたっても変わらないと思いますよ。

 だって、変わりようがないじゃないですか。
 誰が法案を提出するんですか? 誰が可決するんですか?
 だから、みんなが議員になって変えるしかないんじゃないですか?
 だと思いますけど。そういう考え方の議員が増えないとダメですね。

 ただ、それで結局、政治がよくなるのかという問題もあります。
 投票率を上げるっていう意味ではすごく大事だと思いますけどね。
 むしろ電子投票っていうのが大事なんじゃないですか?
 たとえばケータイで投票できるとか。

--意外にインターネットに対する選挙の利用についての見方はドライなのですね。

 それは、ここ(広島6区)から立候補しているからですよ。
 ネットは比例区しか役に立たないですよ。それに、比例区だったら新党しか選択肢がないわけでしょう。
 ネットを活用すると言ったところで。
 それに変なことにもなりかねないですしね。
 たとえば、田代まさしを当選させようみたいな、そういう事件も起こりそうですよね。

※関係者によれば、インタビュー時には立ち上げる予定となっていた、
 堀江貴文氏の政治活動としてのウェブサイトも
「選挙活動につながるとみなされる恐れがある」という識者の見解から、結局は開設は見送られたという。